バロックの巨匠ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの作品は、ボルゲーゼ美術館やヴァチカン美術館、
カピトリーニ美術館など、ローマの様々な美術館で見ることができます。
有名な芸術作品は、美術館に展示されているという固定観念があるので、
意外と街の中にある歴史的に重要なモニュメントを見逃していることがあります。
このページでは、美術館以外で無料で見られるベルニーニの作品を紹介していきます。
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニって誰?
ジャン・ロレンツォ・べルニーニ(1598~1680)は、17世紀イタリアにおいて、
バロック様式の発展に大きな役割を果たした彫刻家であり建築家、画家でもある多才芸術家です。
高名な彫刻家父ピエトロ・ベルニーニの手ほどきを受け、ローマを拠点に
少年時代から彫刻に才能を発揮しました。
20代では、シピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の為に「アイネ イアースとアンキーセース」や
「ダヴィデ」、「プロセルピナの略奪」、「アポロとダフネ」など4体の彫刻群を制作し、
一気に名声をあげました。(ボルゲーゼ美術館所蔵展示)
4体の彫刻群については、 ボルゲーゼ美術館の解説ページで説明しています
ベルニーニは、教皇ウルバヌス8世のもとで「サンピエトロ大聖堂の天蓋」と
「バルベリーニ宮殿の設計」や「トリトーネの噴水」を始めとする
ローマの一連の噴水の製作を手掛けています。
ウルバヌス8世の死後、チャンスに恵まれない時期を過ごしていますが、
この時期にも「四大河の噴水」や「聖テレジアの法悦」など数々の傑作を生みだしています。
ベルニーニは、ミケランジェロに強く影響を受けたと言われますが、彼の作品には、
ミケランジェロにはないダイナミックな動きと曲線、感情の表現が忠実に描写されています。
ローマの美術館以外で見られるベルニーニの作品
「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」と賞賛されたように、
美術館や博物館へ行かなくてもジャン・ロレンツォ・ベルニーニの作品は、ローマのあらゆる場所で
見ることができます。
聖テレジアの法悦
「聖テレジアの法悦(1647~1652年)」は、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会の
コルナロ礼拝堂(左側奥)の中にあり、礼拝堂の装飾は、全てベルニーニによって完成されています。
「聖テレジアの法悦」は、聖女が幻の中に見た天使によって、心臓に火の矢を突き刺され
激しい痛みと神に魂を触れられることによって浮かべる恍惚(エクスタシー・脱魂体験)のシーンを
題材にしています。
天使と聖女の感情表現やダイナミックな動きと衣服の滑らかな曲線は、
大理石の塊から掘り出したようには見えないほど自然な美しさが表現されています。
この時期のベルニーニは、幸運が遠ざかった不調な時期を送っています。
全面的な援護をつけていた教皇ウルバヌス8世の他界後、新しい教皇イノケンティヌス10世から
同じような指示を受けることなく、不調な時期を送っている中で生み出した傑作です。
「聖テレジアの法悦」は、映画化されたダン・ブラウンの小説「天使と悪魔」にも登場しています。
聖テレジアの法悦 [Estasi di Santa Teresa d’Avila]
場所:サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会 [Chiesa di Santa Maria della Vittoria]
住所:Via XX setembre 17
見学時間:8:00~12:30/15:30~18:00
「ハバククと天使」 と「ダニエルとライオン」 の像
サンタ・マリア・デル・ポポロ教会のキジ礼拝堂の中にある2つの彫刻「ハバククと天使」と
「ダニエルとライオン」がベルニーニの作品です。
小説ダン・ブラウンの「天使と悪魔」の第一の殺人現場となったこのキジ礼拝堂は、
ラファエロによってデザインされており、中央の絵画の下絵とクーポラのモザイクも
ラファエロ自身が手掛けたものです。
「サンタ・マリア・デル・ポポロ教会」の記事で説明しています。
「ハバククと天使(右)」と「ダニエルとライオン(左)」は、
小説ダン・ブラウンの「天使と悪魔」が映画化された後、非常に有名になった作品で、
1655~1661年に制作され、キジ礼拝堂の壁龕の対角に置かれました。
ベルニーニのこの2体の彫刻は、1つの物語を完成させています。
天使は対角の彫像を指さし、ライオンの巣で何日も放置されたスープとパンを、
ダニエルに与えるよう、預言者ハバククに伝えている場面が造られています。
ベルニーニは、岩の上に座る預言者ハバククを、年配でも力強い男性として表現しています。
「ハバククと天使(ABACUC E L’ANGELO)」 と「ダニエルとライオン(Daniele con leone)」
場所:サンタ・マリア・デル・ポポロ教会 [Basilica di Santa Maria del Popolo]
住所:Piazza del Popolo 12
見学時間:8:00~12:30/16:00~19:00
アクセス:地下鉄A線 Flaminio 下車 バス 61120F150F160[Villa Borghese/Washington]
ベルニーニは、ナヴォーナ広場やバルベリーニ広場、スペイン広場などローマの重要な広場にも
一連の噴水を手掛けています。
四大河の噴水
ナヴォーナ広場の中央にある、「四大河の噴水(1648~1651年)」は、
べルニーニの不調期に法王インノケンティウス10世の依頼で製作された彼の傑作の1つです。
この噴水も、映画化されたダン・ブラウンの小説「天使と悪魔」の1シーンにも登場しています。
「四大河の噴水」は、世界の4大河を擬人化しており、ナイル川(アフリカ)、ガンジス川(アジア)、
ドナウ川(ヨーロッパ)、ラプラタ川(アメリカ)の4つの地域を表しています。
噴水の中央に巨大なオベリスクを置くことによって、キリスト教とローマ・カトリック教会が
全世界を収めるということを表したものと解釈されています。
16世紀後半から17世紀に活躍したローマのバロック3大巨匠といえば、
ベルニーニ、ボロミーニ、カラヴァッジョですが、この4大河の噴水の正面に建つ
サンタ・ニェーゼ・イン・アゴーネ教会を建てたのは、ベルニーニのライバル、ボロミーニ。
ここでちょっと面白いエピソードがあります。
布を頭からかぶり目隠ししている彫像(ナイル川)は、”ナイル川の水源がわからないこと”を
意味しているそうですが、布を頭からかぶりライバルの作品を「見る価値が無い」と言う
素振りをし、教会の前で手を挙げている彫像(ラプラタ川)は、ライバルの設計が信頼できず、
教会が倒れてこないように、手を挙げて止めようとしている姿だといわれています。
サンタ・ニェーゼ・イン・アゴーネ教会は、建築家ボッロミーニ(Francesco Borromini)
によって1655年頃に完成したとされています。
教会が建てられたのは噴水の完成4年後なので、真実かどうかは分かりませんが、
ライバル関係を皮肉ったこのエピソードは、ローマ人によって語り継がれています。
四大河の噴水 [Fontana dei Quattro Fiumi]
場所: ナヴォーナ広場 [Piazza Navona]
トリトーネの噴水
バルベリーニ広場の中央に置かれた「トリトーネの噴水(1642~43年)」
4頭のイルカが支える貝の上に座り、ほら貝を吹くトリトンから天にまっすぐ伸びる噴水は、
とても華やかで、広場を活気ずけています。
バルベリーニ家出身のウルバヌスⅧ世の依頼で造られた噴水ということで、
家紋の3匹のハチがデザインされています。
トリトーネの噴水 [Fontana dl Tritone]
場所:バリベリーニ広場 [Piazza Barberini]
ハチの噴水
バルベリーニ広場とヴェネト通りが交差する角に置かれた「ハチの噴水(1644年)」
バルベリーニ家出身のウルバヌスⅧ世の依頼で造られた噴水なので、
ここにも家紋の3匹のハチがデザインされています。
トリトーネの噴水に次いで製作されており、トリトーネの噴水で一回噴出された水を地下で再利用して、
このハチの噴水に出力し、馬など家畜用の水場として利用した実用的な噴水とされています。
ハチの噴水 [Fontana delle Api]
場所:Piazza Barberini (バルベリーニ広場とヴェネト通りが交差する角)
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小舟の噴水
スペイン階段の前の広場に置かれた「小舟の噴水(1626~29年)」
ピエトロ・ベルニーニとジャンロレンツォ・ベルニーニ親子の共同作品です。
1598年テヴェレ川の氾濫時に、1隻のボートが広場の真ん中に現れたという
伝説にちなんで製作されたとされています。
2013~14年に 209.960 euroの費用をかけ修復工事を終えた数か月後、ヨーロッパリーグ戦観戦の
ために来ていたオランダのサッカーファンによって、致命的な損傷を受けています。
小舟の噴水 [Fontana della Barcaccia]
場所:スペイン広場 [Piazza di Spagna]
ミネルヴァの象
パンテオンの裏手にあるサンタ・マリア・ソープラ・ミネルヴァ教会の前に置かれている
「ミネルヴァの象(1677年)」 は、このオベリスクを支える台として造られたもので、
ベルニーニによってデザインされ、弟子によって完成されています。
ローマにある11本のオベリスクの中では最も短く、何にでも愛称をつけるのが好きなローマっ子によって、Pulcino della Minerva (ミネルヴァのひよこ)という愛称がついています。
これは、オヴェリスクが短いことから付けられた愛称だそうです。
サンタ・マリア・ソープラ・ミネルヴァ教会の中には、ミケランジェロの「キリスト像」が置かれています。
ミネルヴァの象 [Elefantino della Minerva ]
場所:Piazza della Minerva 42
「カルトゥーシュを持つ天使」と「とげの花冠を持つ天使」
トレヴィの泉とスペイン広場の間にあるサンタンドレア・デッレ・フラッテ教会には、ベルニーニによる
2体の天使像が保存されています。「カルトゥーシュを持つ天使(右側)」と「とげの花冠を持つ天使(左側)」
の2体の天使像は、サンタンジェロ橋を飾る10体の天使像のうちの2体で、教皇クレメンス9世が、
雨ざらしにしておくにはあまりにも美しすぎる天使であるということで、オリジナルを
この教会で保存し、橋にはこの天使像の複製を設置したということです。
そして、皮肉なことにサンタンドレア・デッレ・フラッテ教会の鐘楼とクーポラは、ベルニーニの
ライバルであるボッロミーニによって改装されています。
カルトゥーシュを持つ天使 [Angelo con cartiglio]
とげの花冠を持つ天使[Angelo con con corona di spine]
サンタンドレア・デッレ・フラッテ教会 [Basilica di Sant’Andrea delle Fratte]
住所:Via Sant’Andrea delle Fratte, 1 Roma
見学時間:月~土曜日: 7:30 ~ 13:00、16:00 ~ 19:00 / 日曜日: 7:30 ~ 13:00、16:00 ~ 20:00
まとめ
「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」
と賞賛されるように、彫刻、建築、絵画部門で活躍した多才芸術家。
ベルニーニの作品は、ローマの美術館はもちろん、教会や街中で目にすることができます。
彼の最初の作品は17歳、教皇ウルバヌス8世、イノケンティウス10世、アレクサンデル7世など
3教皇の下で約60年間の制作活動を続け、81歳で最終作を完成させています。
このページでは、無料で見学できるベルニーニの作品をテーマにしていますが、
20代で手掛けた代表作「ダヴィデ」、「プロセルピナの略奪」、「アポロとダフネ」については、
ボルゲーゼ美術館のページで、サンピエトロ大聖堂の「天蓋」、「広場の設計」については、
サンピエトロ大聖堂のページで説明しています。